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槍を持った少女が一息で獣へ接近した。私には目で追えなかった。電光の疾さのまま槍が突き出される。空気が震えた。
喰らうことに夢中であった獣も、生命の危機には敏感なのか俊敏に飛び立ち避けた。
そこにレッドヘルムと呼ばれた少女が、身の丈を越すほどの大斧を掲げ待っていた。斬首刑のギロチンみたいに斧が降り下ろされる。
「───ちっ!」
舌打ちが聴こえた。どうやら渾身の一撃も獣に回避されたらしい。
私には速すぎて何が何やら把握しきれなかったが、二人の少女と獣のやりとりは次第に激化している模様であった。
四足で駆け回る獣をマリオ様だと私は認めたくなかった。あんなに優しかった彼が、獣みたいに涎を口から垂らし、遠吠えする姿はひどく私を苦しませた。
彼が人ではない。ただの獣であると思いたくなかった。なにより彼が苦しんでいるように私には感じたのだ。
絶望の淵から助けてくださったマリオ様を救えるのならば、私は自分を犠牲にしていいと本気で考えていた。
たとえ皇国へ辿り着く前に力尽きようと、それだけマリオ様へ恩義を感じていた。
今は亡き父も言っていたではないか。「結果はあくまで結果だ。目の前にあることを達成していけば、最終的により良い結果が待っている」私は頷いた。
───そうです、何を迷うことがありましょうか。マリオ様を救うために必死になれなくて、より良い結果など得られるはずがありません!!
腹は決まった。私がマリオ様を救うのだ。
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