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「だってよ、ほら着替えておいで」
ワイシャツ半脱ぎ状態で休憩室に放られてしまった。
なにこれ。
渋々着替えを済まし、バッグを手に佐伯教授の元へ行く。
「教授、お待たせしました」
「さて、帰ろうか。珈琲有難うね」
「いえいえ、また来てください。お待ちしております」
そう言って頭を下げるマスターに「すみません」とだけ謝ると紙袋を手渡された。
「大和君、明後日も宜しく。じゃあお疲れ様でした」
にっこりと笑うマスターに心底申し訳ない気持ちが募る。きっと、これから1人で掃除するんだろうな。
そう思っていても、言葉には出せずそのまま教授の車に乗ってしまった。
「驚いた、まさか行きつけのカフェで君がバイトしてるなんてな...」
「俺も驚いてますよ。まさか教授が来て、いきなり服を脱がされるなんて。」
ボソッと呟く俺に、彼はフッと笑みを溢す。
「悪いね、つい君を持って帰りたくなってさ。」
いやいや、知らねぇよ。
窓の外を見詰める俺の座椅子は、直立。まるで誰も乗せたことがありません、とでも言うかの如く直立だ。
椅子を倒すレバーを探す俺に気付いたのか、彼が「ごめん」と言いながら覆い被さり椅子を少し倒してくれた。
覆い被さった時に見えた首筋は、月明かりでほんのりと露になり香水の香りが鼻腔を擽ると、何故かドキリとした。
それだけではない、一瞬だけかけられた彼の重みと熱さが残っている。
上から退いた彼を、少しだけ愛しく思ってしまう程だった。
こんな事を思う自分に寒気がする。
女か、俺は。
「門限まで、あと1時間か。ちょっと付き合って貰ってもいい?」
そう言いながら寮とは反対方向に車を走らせる教授は、そもそも俺の答えは聞かないつもりであろう。
車内に流れる名前も知らない音楽と、緩やかに走行する車は疲れた身体に酷く心地いい。
「着いたら起こしてやるから、それまで寝ててもいいよ...」
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