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何処かで誰かが呼んでいる。
そんな感じがして重たい瞼を開けた。
「...おはよ。大和君、着いたけど降りれる?」
そうか、教授の車に乗って拉致されたんだっけか。
「ん........」とだけ、短い返事をした俺は身体を起こし車のドアを開けゆっくりと降りた。
潮の匂い、波の音。
どうやら海に連れて来てくれたらしい。
「今日は満月だから明るいだろ?星も綺麗に見えると思う...」
そう口にした彼が砂浜に腰を降ろし空を見上げる。
それにつられて俺自身も空を見上げた。
「...凄い綺麗」
思わず溢れた言葉の次に続くのは、美しさからのため息であった。
「だろ?いっつもここに星見に来てんの」
先ほどの珈琲の入ったタンブラーに口付ける彼は綺麗に笑って見せる。
ほら、と言いながらもう一つのタンブラーを差し出してきた事から、俺に買ってくれた物だと悟った。
隣に腰を降ろし、タンブラーを受け取り御礼を言うと優しく頭を撫でてくれる。
何だか頬が熱くなるような気さえした。
それから数分はお互い口を開かなかったが、いきなり彼がそっと口を開ける。
「星見てるとさ、あまりの綺麗さにどんな悩み事も吹っ飛ぶような気がするんだ。どんな事もちっぽけに見えて、また明日頑張ろうって気になる。」
「.......俺は田舎じゃない限り、こんな星一生見れないと思ってた。連れてきてくれてありがとうございます。良い思い出になりました」
「それは良かった。また今度一緒に来よう。次は快晴の時だな。おいで、長居すると身体を冷やす」
隣で立ち上がる彼が、手を差し伸べてくる。
その手を掴み、勢いで立ち上がろうとした俺はあろう事かバランスを崩して教授の胸の中にすっぽりと収まる事になった。
「っと...」
背中に回る大きな手。
耳に触れる吐息。
衣類越しでも感じ取れる体温。
鼻腔を擽る甘い香り。
クラクラする程の現実ーー。
「大丈夫?」
「...う、ん」
心臓が早鐘を打ち、キュッと締め付けられた。
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