~5~

6/8
前へ
/307ページ
次へ
「あの後で、被害にあったというのは聞いていないが」  柊也がそう口を挟んだのを、瑠哀は口の端を少し上げた、皮肉げな笑みを浮かべて返す。 「表に出なかったからと言って、何もしていないとは言い切れないわ。 あの男の後ろには父親がついている。不出来な息子の不祥事など、簡単にもみ消せると思うけど?」 「それは、そうかもしれないけど――。なぜ、君が…?」 「私を狙っているようなの。だから、私も、それに乗ったと言うわけ」 「それは、危険だっ!!」  柊也は軽く首を振って声を上げた。  ニックも同意を表して、瑠哀に言う。 「僕もそう思う。万が一のことがあったら、どうするつもりなんだ? それは、警察のするべきことで、君があえて危険を冒してまですることじゃないよ」 「確かに、少し迂闊だったわ。バーテンとあの男がつるんでいるとは予想していなかったから」 「そう言う…ことを言っているんじゃ――」 「無駄だ」  ニックの言葉を、朔也が途中で遮った。  厳しい表情を顔に浮かべ、視線だけを瑠哀の方にむけている。 「君がなぜこのことに関わっているのかは、今は聞かない。だが、今夜のことは一体何なんだ?なぜ、そんな風にまでなった?」 「一服盛られたわ」  瑠哀は表情一つ変えずに答えた。 「気づいた時には、すでに体に回っていて、どうすることもできなかったの。 だから、グラスを手に取った。抵抗する力も失せていたから、一瞬にかけるしかなかった。 その後、人影の少ない浜辺に連れて行かれて、まあ…誰でも判りきった状況になりそうだったから、殴り飛ばしてきたわ。 この家に着いてからのことは、あなた達が知っている通りよ」  柊也とニックは唖然として口を開けている。  驚きを通り越して、ただただ、呆然としているようだった。  その中で、天宮は少し眉根を寄せて瑠哀を見ていた。  何かを考え込んでいるかのように、その黒い瞳が鈍く光っている。 「それで、やめる気はない?」  朔也が瑠哀を真正面から見据える。  瑠哀は何も言わず、ただ朔也を見返した。 「このような状態を見て、俺達が君を安々行かせると思うのか?君がどうしてもやめる気はないと言うのなら、俺の条件を聞いてもらう」
/307ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加