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「あの後で、被害にあったというのは聞いていないが」
柊也がそう口を挟んだのを、瑠哀は口の端を少し上げた、皮肉げな笑みを浮かべて返す。
「表に出なかったからと言って、何もしていないとは言い切れないわ。
あの男の後ろには父親がついている。不出来な息子の不祥事など、簡単にもみ消せると思うけど?」
「それは、そうかもしれないけど――。なぜ、君が…?」
「私を狙っているようなの。だから、私も、それに乗ったと言うわけ」
「それは、危険だっ!!」
柊也は軽く首を振って声を上げた。
ニックも同意を表して、瑠哀に言う。
「僕もそう思う。万が一のことがあったら、どうするつもりなんだ?
それは、警察のするべきことで、君があえて危険を冒してまですることじゃないよ」
「確かに、少し迂闊だったわ。バーテンとあの男がつるんでいるとは予想していなかったから」
「そう言う…ことを言っているんじゃ――」
「無駄だ」
ニックの言葉を、朔也が途中で遮った。
厳しい表情を顔に浮かべ、視線だけを瑠哀の方にむけている。
「君がなぜこのことに関わっているのかは、今は聞かない。だが、今夜のことは一体何なんだ?なぜ、そんな風にまでなった?」
「一服盛られたわ」
瑠哀は表情一つ変えずに答えた。
「気づいた時には、すでに体に回っていて、どうすることもできなかったの。
だから、グラスを手に取った。抵抗する力も失せていたから、一瞬にかけるしかなかった。
その後、人影の少ない浜辺に連れて行かれて、まあ…誰でも判りきった状況になりそうだったから、殴り飛ばしてきたわ。
この家に着いてからのことは、あなた達が知っている通りよ」
柊也とニックは唖然として口を開けている。
驚きを通り越して、ただただ、呆然としているようだった。
その中で、天宮は少し眉根を寄せて瑠哀を見ていた。
何かを考え込んでいるかのように、その黒い瞳が鈍く光っている。
「それで、やめる気はない?」
朔也が瑠哀を真正面から見据える。
瑠哀は何も言わず、ただ朔也を見返した。
「このような状態を見て、俺達が君を安々行かせると思うのか?君がどうしてもやめる気はないと言うのなら、俺の条件を聞いてもらう」
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