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 朔也は念を押すように聞き、不穏な色のその視線を瑠哀に向けた。  瑠哀は言い逃れできないことを悟り、軽く溜め息をつく。 「下川と言う男を、知っていますか?」 「下川?――確か、ここの衆議院をしている、その一人息子だと思ったが」 「ええ、その息子です。ここ伊豆は観光の名所で、年々ここに来る観光客の数が増えていると聞きます。 その上、休みにかけての小旅行者も増えていて、多数の女子大生もここに滞在しているそうです」 「それが?」  話の意図が掴めず、朔也は首をかしげた。 「人が集まれば、必ず犯罪が起きる。まして、その数が多ければ多いほど、そういう悪事を考えている人間にとってはもってこいのチャンス。 ここ数年、伊豆警察は窃盗だけでなく、色々な犯罪報告を旅行者から受けていて、休み期間中はとても忙しいと聞いています」 「確かに、犯罪は増えているだろうね。日に一回はなんか起こると言っても、過言じゃないかも。 まあ、極些細な喧嘩とかも混ざってはいるけどね」  柊也が瑠哀に同意を示した。  ふと、何かを思い出したように瞬きをし、少し顔をしかめるようにした。 「下川って言った?――その男、5~6年前に、新聞に取り上げられたような気がする」 「5年前?――そんな昔の新聞の記事まで覚えてるのかい、シュウ?」  ニックは半ば呆れたように問い返す。 「と言うか、そいつが事情聴取のために連行される時に、すぐ側にいたんだ。それで、何となく覚えていて……」 「容疑は何だったんだ?」  天宮が何気なく聞き返す。  柊也は、うーんと、考え込むようにし、 「確か……、婦女暴行の疑いだったと思ったけど――」  そう言った柊也はハッとした。  他の全員も同じことを思ったらしく、慌てて瑠哀に向き直る。 「まさか、これは下川がやったのか?」  瑠哀はこれには答えず、ただ黙って朔也を見上げた。 「あの男は嫌な感じがする。弱い者をいたぶって、快楽を得ている目付きだわ。 あの男が何もせず、ここで夏を過ごすなんて想像できない。 必ず、被害があるはず。少なくても、私はそう睨んでいる」
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