憫笑

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 柏野はぼんやりとした意識のまま、まるで夢の中にいる様な感覚で喋り続けた。  〝笑顔で〟の意味は〝いつも優しく見守る温かい眼差し〟。  〝春の訪れ〟の意味は〝凍てついた心が雪解けし木々が新芽を吹く〟。  〝こんなに楽しい時が永遠に続くといいのに〟の意味は、柏野の心からの願い。  自分に刻んだ文字の意味は語らなかったがなんとなく、解った気がした。ネックレスを見下ろしていると、視界の端で不意に潤が動いた。そして数秒して離れると今度は苦笑が聞こえた。  夢から覚めたのか、柏野は驚いた様な照れた様な混ざった表情を浮かべていた。  「……柏野、ありがと」  ネックレスを持ち上げると柏野は小さく頷いた。  「潤、俺の…持ってて、ほしい」  「わかった」  「……」  どうらや結ばれたらしい。潤が柏野の頭を撫でている。撫でられている柏野も嬉しそうだ。俺は小さく溜め息をつくと騒ぐ潤を押しのけ、次の瞬間には柏野の唇を塞いでいた。
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