忍び笑い

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 潤の両親は忙しい人達でしょっちゅう海外出張に行っている。今回も夫婦で米国に一ヶ月の出張中らしい。なので中学の頃から自炊している潤の料理の腕はめきめきとあがっている。やはり物を作るという事に関しては俺は手も足も出ない。「もったいないから調理師になればいいのに」と訊いた事もあるが「料理は趣味なの」と言われた。「柏野に作ってあげれば?」とついでに訊いたら動揺したのか大量の砂糖が投下され、とんでもなく甘いケーキが紅茶と共に出された。今も昨日から作っていたゼリーが眼下にある。  「みかんといちごと作ってみた」  「……ん。で?」  いちごのゼリーを食べながら訊くと「実は…」と正面に座った潤が座り直した。  「俺さ」  「うん」  「比呂の事、好きらしい」  「何をいまさら」  「……え?」  きょとんとした表情で潤が顔をあげた。俺はいちごを食べ終えみかんにスプーンを突き刺す。ほどよい弾力。俺の好みを知っている潤だからこそ出せる弾力と味だ。  「何?」  「いや…いまさらって…え? 気付いてた?」  「逆に訊くけど、気付いてないと思ってた?」
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