甘党少女

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  しかし、困った。 僕の行動を観賞することで彼女が楽しく感じられるならばそれもやぶさかではないのだが、大変に作業しづらい。 どうにか彼女に笑顔に保ってもらいつつリビングへ行ってもらわないと……。 視線をあちこちへ向けながら、方策を思案する。 僕以外には誰も使用しないぴかぴかの調理器具。前もって余熱で温めてあるオーブン。既に完成している生地の入ったボウル。その生地の受け入れ体制が整っている円形の型。今回使用する事はないガスコンロ。沸いた湯が入っているポット。一人暮らしにうってつけなサイズの冷蔵庫。 ……冷蔵庫? 「そうだ」 たしかアレが残っているはず。 「……どうしたの」 訝しげな瞳を無視して、冷蔵庫を開けて中に右手を突っ込む。 「これでも食べて待っててください。リビングで」 最後を強調しながら言うと、しゅんと彼女の表情が萎れた。 だが、僕が右手に持った物を見るやいなや一転。彼女の顔が綻ぶ。 「……林檎!」 赤々と熟れた果実を僕の手から引ったくると、すぐさまぞぶりとかぶり付いた。 彼女が噛み付いた箇所からじゅわりと果汁が溢れ出したのが見て取れる。 しゃりしゃりと口から音を響かせながら、彼女は踵を返してリビングへと向かっていった。 かなりご機嫌らしく鼻歌まで披露しながらというおまけ付きで。 「……はぁ」 彼女が去って一人となったキッチンで、付き合い始めてから何度目か分からないため息を吐く。 回数を数えるのは悲しくなったので途中で止めてしまった。 が、付き合いだしてから行なった恋人らしい行動よりも明らかに多いのは、考えるまでもないことだった。  
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