甘党少女

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  ため息の原因は、ずばりその恋人らしい行いである。 付き合い始めてこの一月、僕がしたことといえば、一人暮らしをしている彼女――実は、高校三年の僕より一つ年上の大学生なのだ――の食事係だけ。 今では先程のように、冷蔵庫の中身まで把握してしまうまでに至っている。 喫茶店を経営している母から仕込まれた料理の腕、とりわけスイーツに対するそれには少しばかり自信があるし、彼女が大の甘党だというのも理解している。 事実、僕が作った甘味を食べて幸せそうな笑顔をする彼女を見ていると、僕の心にぽかぽかしたものが流れ込んでくる。それはいいのだ。 しかしキスやハグ、あまつさえデートや手を繋ぐという行為さえ無く、来る日も来る日も料理を作り続けていると、僕は彼女の彼氏になったのではなく菓子職人にでもなったのかと小首を傾げてしまう。 彼女が乗り気でないのは重々承知だが、こちらも若い盛りの男子。やはり恋人の部屋に二人きりだと色々想像に拍車がかかるし、悶々としたものが積もり積もってしまうのだ。 このままでは悟りの境地に達してしまうかもしれない。 もしかして彼女は、僕の事を体の良い調理担当くらいにしか思っていないのではないか。 一月前、家の喫茶店の常連だった彼女に告白した僕を、内心では嘲笑っていたのではないだろうか。 直前の出来事を思い起こすと、僕を見るより林檎を食べる方を嬉々として選んだのだ。 僕の存在価値は林檎以下なんじゃないか……そこまで考えて僕ははっと現状に立ち返った。 今は作業を続けるべき時。 なにを林檎に嫉妬しているんだ、僕は。 二度三度と頭を振って邪推めいた考えを頭から追い出し、僕は調理を再開した。  
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