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実際、彼とは何にも起こらなかった。
私の、小さな想い出。
「さて、そろそろ帰ろうか。沙耶ちゃんも明日早番でしょ」
「はーい」
三人でお店を出ると、3月の冷たい夜風が心地よかった。
沙耶ちゃんを駅まで送って、私と孝太は踵を返す。二人とも徒歩なのだ。
「送るよ」
「いいよ、大丈夫」
「…でも、送るよ」
孝太はやさしい。
面倒見が良くて、気配り上手。
女の子を不安にさせたりしない。
フェミニストは女性が多く働く百貨店マンの必須条件かも。
「あっ、まだ事務所に灯りがついてる」
私たちは揃って、駅前に佇む大きなビルを見上げる。
そう、ここが、私たちの働く加島百貨店本店だ。
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