百貨繚乱

April

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「おはようございます」

制服に着替えて、役員フロアを通り抜け、一番奥の部屋をそっと覗きこむ。

「良かった、社長はまだいらっしゃってないみたい」

ほっと一息つくと、掃除を始めた。

私は加島百貨店の社長秘書を務めている。

入社当時は沙耶ちゃんや孝太と同じく本店婦人服売場に配属、その後インフォメーションカウンターなどで3年間勤務した後、2年前に秘書室に異動になった。

初めは何も分からず戸惑うばかりだったけれど、仕事もだいぶ慣れ、そして1か月前からは先輩秘書が産休のため、一人で社長秘書を任されている。

定型的な業務は叩きこまれたし、社長も穏やかな方なので問題なく務められていると思うんだけれど、最近社長の出社時間が急に早くなったのが気になるところ。

秘書は社長が来る前に出社しているのが鉄則だから、前触れなく早く来られるのも困りものなのだ。

「お忙しいのかな…」

秘書と一言に言っても会社ごとに業務は様々。

私は身の回りの事務サポートとスケジュール管理が主な仕事だから、会社の数字とかを見たり、意見を言ったりするような立場にはない。

社長の外出や会議などの予定から考える以外には、推し量るすべがないのだ。