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From 中村風香
風香からのそのメールには、何も書かれていなかった。
だが、
「……な……はぁ!?」
隼人は思わず自転車を止めて、携帯の画面を凝視する。
そのメールには、画像ファイルが貼付されていた。
暗い部屋の隅に、両手を後ろ手に、両足を太ももから足首に至るまで拘束されており、目には白い布が巻かれ、口にはガムテープが貼られている少女の写真だった。画質等から見て、携帯の写メール機能だろう。
その写真の拘束された少女だが、その人物に隼人は見覚えがあった。
彼女に見覚えしかなかった。
彼女を見間違えたこともなかった。
だって彼女は──
「莉菜っ!?」
隼人の恋人──田原莉菜だったのだから。
「っ──!」
慌てて自転車のペダルに足を掛ける。
一刻も早く学校へ。突き刺さる風も、かじかんだ手も隼人はどうでもよくなっていた。
とにかく、一秒でも早く学校へ行かなければ大変なことになる。ここにきて初めて、隼人の中に焦燥感が生まれた。
莉菜が拘束された写真が風香から送られてきたということは、考えたくはないが、そういうことなのだろう。場所は暗くて確信は出来ないが、恐らく教室。二人は親友だった筈なのに、どうしてこんなことになっているのか、隼人には検討も付かなかった。
だがそこで隼人は、友人である玉置紘己にこのことを伝えるのを思い付いた。
隼人は紘己と特に中が良く、紘己は風香と幼なじみで、彼女のことなら隼人より詳しく知っている。
To 玉置紘己
ごめん、今すぐ学校に来て。風香と莉菜が何かヤバイ。
それだけの短文ですら、かじかんだ隼人の手では打つのに時間が掛かった。ましてや自転車を漕ぎながらとなると尚更である。
時刻は一時三十分過ぎ、もしかしたら紘己は既に寝ているかもしれないと懸念していた隼人だったが、幸運にも紘己からの返事はすぐに来た。
From 玉置紘己
解った、すぐ行く。
理由も聞かず、あれだけで了承してくれる紘己の寛容さに感謝しつつ、隼人は自転車の速度を更に早めた。
学校に到着した隼人は駐輪場をそのままスルーし、下足の前まで自転車で移動した。
夜の校舎は初めてで、鍵が閉まっているのではないかと、下足の扉に手を掛けた時、一瞬不安になった隼人だったが、扉はその不安に反し、すんなりと開いた。
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