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 だが良く見てみると、扉の鍵は壊されており、それが隼人の不安心を先程以上に高める。  それでも、隼人は走らないワケにはいかなかった。  夜、誰も居ない校舎の中、非常灯だけが不気味に光る廊下を走り抜けて、隼人は自分たちが日々授業を受けている教室の扉を勢い良く開く。  バンッ!  その教室は月明かりがよく、深夜の時間帯であっても、教室全体を何となくだが見渡すことが出来た。  彼女は、その月明かりが一番強い窓際に立って、外に降る雪を眺めていた。 「……やっと来たんだ。待ちくたびれちゃった」  中村風香。 「あんまり来るのが遅いから莉菜ちゃんの写真送ったんだけど、結構効果あったみたいだね。」  そう言って風香は、扉を開けて肩で息をしている隼人と向き合った。  こんな異常な状況でも落ち着いていて、表情一つ崩さない風香は、彼女の背後から射し込む月明かりも相俟って、美しく見えた。  否、こんな異常な状況だからこそ、彼女はより美しく見えるのだろう。  まるで全てを見透かしているかのような、達観した瞳が、その理由だった。 「はぁっ、はぁっ、……風香、お前──」 「解ってるよ。言いたいことは全部解ってる。莉菜はどこだとか、なんでこんなことを、とかでしょ」 「…………」  大体、というかほぼ合っていた為、隼人は何も言うことが出来なかった。 「ほら、隼人くんって、解りやすいもん」 「お前は……解りにくいんだよ」  会話の主導権を取られない為の、せめてもの反抗だった。  だが風香は普段から、どことなく掴み所のない人物ではあった。いつもニコニコして周囲の会話に会わせているが、隼人は風香自身の意見というものをあまり聞いたことが無い。  自分を隠すことが、風香のアイデンティティだと言っても、隼人からすれば過言ではなかった。  それほど風香は、解りにくい。 「ふふ、どういたしまして」  皮肉の言葉が、風香は誉め言葉として受け取ったようで、彼女は微笑みながらそう言った。 「……風香、莉菜はどこだ」  そして隼人は、整った息でこれ以上は待てないとばかりに話を切り出す。 「そんなに慌てなくてもいいのに。隼人くんってせっかちだよねぇ」  風香はそう言いながら教室内を後ろへ窓際に沿って歩き出す。 「大丈夫、莉菜ちゃんはすぐそこにいるよ。私達の、すぐ近く」
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