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少しでもおかしな動きをすれば、本気で莉菜を殺しそうなこの雰囲気が。
直接風香と対峙して、その空気がピリピリと伝わってくる。
隼人は一度、息を落ち着かせる。
「風香、なんでこんなことした」
だから、隼人は自分の素直に思っていることを聞いた。
時間稼ぎでも、風香の真意を探る為の前戯でもない。できれば真意も聞きたいが、絶対というワケでもなかった。
単に隼人はどうしても解らなかっただけなのだ。何故風香は、こんなことをしたのか。
それが知りたかっただけだった。
そうやって、何も包み隠さずに自分の疑問をぶつけることが最善手だと、隼人は判断した。
風香の機嫌を、損ねないことが。
──だが、それを聞いた風香の顔から、笑みが消えた。
「なんで? ……ふ、ふふ、あはははは……! あはははははは! はははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ────!!」
そして今度は本当に、本気で愉快そうに、目を見開いて狂ったように大きな笑い声を上げる。
風香がそこまで感情を剥き出しにするのを、隼人は初めて見た。そのおぞましさと威圧感に、彼は無意識に奥歯を噛み締めていた。
少しして、風香は笑うのをやめると、それでも余韻として「クヒッ」と引きつったような笑い声を出しながら、彼女は叫んだ。
「君が──隼人くんがそれを解らないからこうなったんだ!!」
そう言って、風香は足下に転がっている莉菜の腹部を蹴る。
「──んっ、ぐ……っ!!」
「や、やめろ!」
隼人の制止には耳も傾けず、続いて風香は莉菜の目に巻かれている布と、口のガムテープを強引に引き剥がした。
「っ……ゲホッゲホッ! ……はぁ、はぁ……ふう、か……」
「莉菜ちゃんも悪いんだよ? 莉菜ちゃんも解らないよね、なんで私がこんなことしたのか、解んないよね。解るワケないもんねぇ!? ほら答えてよッ!!」
更に一発、風香は莉菜の腹部を蹴った。
「がっ──う……ゴホッ」
「──ッ! このっ、いい加減に!!」
我慢の限界が来た隼人は、多少のリスクなど無視して風香へと突撃する。
もとは体より頭を使う方が得意な方だったが、それでも運動神経には自信がある。それに、いくら風香がナイフを持っているといっても、男が女一人を押さえつけるくらい造作も無いと踏んだのだ。
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