21人が本棚に入れています
本棚に追加
新たなお隣さんが越してきて暫く。
待ち望んでいた桜は漸く満開だ。
僕は冷えた缶ビール片手にベランダに凭れる。
聞こえてくるのは掃除機の音。
お隣さんが一週間の汚れを吸いとっているらしい。
暖かな春の日差しに輝く淡い花弁の木の下で、若い夫婦が小さな子供を遊ばせているのを見ていると、ふと思った。
……そういや前のお隣さん、音楽以外の生活音が全く聞こえなかったな。
最近やたらと響いてくる、玄関のドアが閉まる音ですら。
今思えば……おかしすぎる。
気配と言うものが全くなかった。
まるで人などいないかのように……。
……うん、きっと物静かな人だったんだ。
妙な考えを吹き飛ばし、グビグビとビールを飲み干して部屋に入る。
そこはいつもの部屋。
もうあの音楽は聞こえない。
隣の人の足音が聞こえてくる、僕の部屋。
最初のコメントを投稿しよう!