僕のお隣さん

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新たなお隣さんが越してきて暫く。 待ち望んでいた桜は漸く満開だ。 僕は冷えた缶ビール片手にベランダに凭れる。 聞こえてくるのは掃除機の音。 お隣さんが一週間の汚れを吸いとっているらしい。 暖かな春の日差しに輝く淡い花弁の木の下で、若い夫婦が小さな子供を遊ばせているのを見ていると、ふと思った。 ……そういや前のお隣さん、音楽以外の生活音が全く聞こえなかったな。 最近やたらと響いてくる、玄関のドアが閉まる音ですら。 今思えば……おかしすぎる。 気配と言うものが全くなかった。 まるで人などいないかのように……。 ……うん、きっと物静かな人だったんだ。 妙な考えを吹き飛ばし、グビグビとビールを飲み干して部屋に入る。 そこはいつもの部屋。 もうあの音楽は聞こえない。 隣の人の足音が聞こえてくる、僕の部屋。
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