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赤い満月が浮かぶある日の深夜、季節はまだ五月上旬というのにもかかわらず、海から吹きつける潮風は煩わしいほど生温かい。
夜空に浮かぶ雲の流れは速く、ちょうど月を陰らせ始めていた。
太平洋に面した日本のとある港に一隻の貨物船が止まっている。
赤や緑など様々な色のコンテナが積まれている中、それとは別にシートが被せられた積み荷が四つ。
縦に長いそれはシルエットからして何かの銅像か、あるいは……
「これが注文の品だ。確かめろ」
左頬に大きな三日月状の傷がある彫りの深い顔の男が、売り手にしてはずいぶんと強気な命令口調でそう言う。
ロシアからの長旅で少々気が立っているのかもしれない。
短く切りそろえられた髪は赤く、この世の全ての淀みを引き受けたかのような灰色の瞳は獣のそれのような鋭さで鈍く光っていた。
異国の男に言われるがまま、二人の日本人の男は積み荷に近づくとシートを少しだけめくり、恐る恐る中身を確かめた。
「ああ、間違いない」
口周りに髭を生やした初老の男がそう呟くと、二人は積み荷から離れて再び取引の相手と顔を見合わせた。
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