迷子の僕に。

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「麻友、まだここにいたの?」 クラスメートの声がして、あたしは振り返った。 清潔感あふれる保健室のドアのところに、遠慮がちに顔を出す女の子がふたり。 さゆりと千恵だ。 ふたりは手に小さな包みを持って立っていた。 それはできたてのクッキーだった。 今日は金曜日、 あたし達3人が入っている料理部の、週に1回の活動日だった。 行かないと面倒なことになるから、ふたりからは来るように言われたのだけれど、 あたしは優くんが心配だからとSHR(ショートホームルーム)後すぐにここへ来たのだ。 ふたりがこうして帰って来たということは、SHRから1時間ほど経っているのだろうか。 ということは、優くんが倒れてから8時間は経っている。   優くんは、まだ目覚めない。 「うん、…優くんが心配で」   そう言ってあたしは、 真っ白なベッドの上で眠ったままの優くんを目で示した。 「あの時、あんなこと言わなきゃよかった…」 美佳のこと、忘れた方がいいなんて。 そんなこと、きっと一番優くんが一番わかってるはずだ。 優くんは美佳のことを忘れようと必死で、 でもできなくて、苦しんでる。 あたしはそんな優くんに、サイテーなことを言ったんだ。 あんなの、あたしなんかが言っていい言葉じゃない。
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