迷子の僕に。

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「まーゆ、なんかちょーだい!」   耳もとで突然声がして、 あたしのフォークに刺さっていたミートボールが消えていた。 慌てて振り向くと、 信じられないくらい至近距離に優くんの顔がある。 優くんは顔をしかめて呟いた。 「おまえ、急に振り向くなよな、髪あたって痛いんだけど」 「あんたこそ、急にうしろから来ない!」   その時のあたしは、きっと真っ赤になっていたに違いない。 視界の端に、さゆりと千恵がにやにやして見ている姿が映る。 …絶対、後でからかわれる。 「…あ、そうこれこれ。最新刊、読んだか?」 「もちろん、読んだ! この話でリュートの過去わかんじゃん? …もう、あたしそこで泣いちゃって…」 「あ、それ、市原が言ってたのとおんなじ感想!」   ――え。 と、突然聞こえてきた名前に、あたしは驚いた。 思わずまん前の机でお弁当を食べている美佳を見たけど、 さっと視線をそらされてしまった。 「美佳と、その話したんだ?」   その時、あたしはきちんと笑えていただろうか? 「うん。 やっぱおまえらってさ、 見た目だけじゃなく中身もそっくりなんだな!」   …なにそれ。最悪。 あたしと似てる美佳と話したから、 もうあたしと話す必要はなくなったってわけ?   心の中で、嫌な感情があたしをいっぱいにする。
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