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どれくらいそうしていただろう。
気がつくと、窓の外は日も落ちて、部屋の中には薄闇が広がっていた。
コタツから出て、部屋の照明を点ける気にもなれない。
パソコンのモニターの明かりでも気休めにはなるだろう。
柚はノートパソコンをたぐり寄せて、開いた。
そこには――。
柚が仕事で使っているワープロソフトの白地の画面に、
早生が残したメッセージが浮かんでいた。
『いつも柚に甘えてばかりでごめん。
俺は欠点だらけで、決して立派な男じゃないけれど
でも、誰よりも柚を大事に思ってる。
だからそろそろ、甘えるのは卒業して
柚を支えてやれるようにならなきゃな。
内緒にしてたけど、
勤め先を見つけて、仕事を始めたんだ。
暮れに初の給料が出たから、
遅くなったけど、クリスマスプレゼントを届けに来た。
柚を守れるようになったら、また帰ってくるから
もし受け入れてくれるなら、受け取って欲しい。
靴箱の上に置いておくよ』
柚は慌てて、玄関へと走った。
靴箱の上に、合鍵はなかった。
代わりに置かれていたのは、紺色の小さな四角いケース。
その中には、銀色のリングが納まっていた。
決して高いものじゃない、シルバーのみのシンプルなデザインの指輪。
でもそれが今の早生には精一杯の、自分への想いの証であることが、柚にはわかった。
そして柚は、病院での結果を聞いてからはじめて、自分の腹部に優しく触れる。
その中に宿る新しい命を、愛しむように。
柚の瞳から温かいものがこぼれて、頬を伝った。
――種は、あったんだ。私達にも。
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