Seedless Lovers

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 どんよりとした灰色の雲の間から、ささやかに日の光が差し込んで、  つかの間、アスファルトを明るく照らす。  ひと時の間生まれた日なたに踏み込んで、柚は安堵したように、ほう、とため息をついた。  吐き出したその息も白く、張り詰めるような冬の冷たい空気に溶けていく。  病院からアパートに帰ってくると、部屋の中には予期せぬ来客がいた。  トレーナー姿の若い男が、コタツに入って柚のノートパソコンを勝手にいじくっている。  部屋に帰ってきた柚に気がつくと、慌ててパソコンを閉じた。 「またいやらしいサイトでも見てたの?」 「ちげーよ。ちょっと調べもんしてただけだ」  男は柚を見ず、視線を泳がせながらいい訳じみた返事を返した。  彼の嘘を見破るのは簡単だった。  別にどうでもいい。  変なものダウンロードして、大事な仕事道具にウィルス入れてくれたりさえしなければ。 「どこかに出かけてたのか? 電話しても反応ねえし」 「……ちょっとね。まさか来るなんて思ってなかったし」  柚はコートを脱いで、ふと見るとコタツの脇に、男が無造作に脱ぎ捨てたダウンジャケットを見つけた。  先に男のジャケットを拾い上げてハンガーにかけ、続けて自分のコートをかける。  ……世話がやけるのは相変わらず。  柚は呆れてため息をついた。  男の名は早生(はやお)。  大学時代からの付き合いで、ほんの二ヶ月前まで、この部屋の住人で、柚の同居人だった。  親元を離れて一人暮らしをしていた柚のこの部屋に、早生が転がりこんできた日のことを、もう柚は思い出せない。  なしくずし的に男と女の関係になって、なしくずし的に一緒に住むことになって、終わる時もなんだかなしくずしだったような気がする。  今が正月休みを明けてすぐだから、早生が出て行ったのは十一月の頭のことだろうか。  何がきっかけで喧嘩になったのかもよく覚えていない。  ただ、仕事に追われている自分に比べて、毎日この部屋で寝転がってろくに働こうともしない早生に、苛立ちを覚えていたのはずいぶんと前からだ。  それが爆発して、言い合いになって、売り言葉に買い言葉で早生は出て行った。
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