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食べ終わったみかんの皮をそのままに、新しいみかんをむいて、また一粒、口に入れる。
「私たちと一緒ね、このみかん」
「……えっ?」
柚の呟きに、早生は顔を上げた。
「未来に繋がる種も残せない。だったら無意味よね」
柚の言葉に、早生は無言のまま。
みかんを食べる手を止めて、柚の顔を見つめる。
柚は自分でも気づかないうちに、泣きそうな顔をしていた。
なぜ、そんな顔をしているのか、なぜこんなにも胸が苦しいのか、柚にもわからない。
ただ、悲しくて、苦しくて、辛かった。
認めてしまうのが。
早生にとって、自分は未来を共にする相手ではなく、所詮はひと時繋がっただけの『接ぎ木』にすぎないということを、認めてしまうのが。
早生は、言葉もなく柚を見つめると、再びみかんを口にして、言った。
「……そんなことは、ないんじゃねえかな」
そして、コタツから出ると、ジャケットを着る。
「ごちそうさん。俺、そろそろ行くわ」
「……そう」
すたすたと玄関に歩いていく。
柚はコタツから出ず、その場でうつむいたまま。
「合鍵、返したほうがいいか?」
「……好きにすれば」
「わかった」
早生がポケットの中身を取り出して、靴箱の上に置いた。
そして、扉の閉まる音。
柚はテーブルに顔を伏せた。
病院で医師に告げられた言葉を思い出す。
検査結果は陽性。妊娠しています。
こんなこと、言えるわけないじゃない。
今さら、あなたの子供が私の中にいるなんて。
どうしようもなく泣きたい気分なのに、涙は出なかった。
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