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ドアに鍵をかける。どんな時でも用心深くするように、幼いころから躾けられている。
右を見る。
部屋の中から見ると左だったが、外から見ると右であるこの部屋。
先程のことがあったせいか、何か不気味に感じる。
新聞受けの中はたくさん溜まっていて、普通に考えると誰もいないのではないかと思うくらいだ。
しかし、あの音。
誰もいないわけがない。なぜ溜まった新聞を取らないのだろう。
その部屋を見ていると、俺の左隣の部屋のドアが開き、声が聞こえた。
振り向くと、汚らしい格好をした俺より少しだけ年上のような男がいた。
「お隣に来たって人かな?」
「あ、ど、どうも。こ、こ、こ、これ、どうぞ!今後ともよろしくお願いします!板橋です!」
『粗品』を渡すとその男はニヤケながら言った。
「それにしても、物好きだね。」
「え?」
「あれ、知らなかった?じゃあ、いいや・・・。俺は大谷。役者目指してるからよく部屋で練習してるけど、困ったら声かけてね。」
「は、はい。」
そのまま大谷さんは部屋に入ってしまった。
優しそうな人でよかったが、何か含みを持たせるような言い方が少し恐怖心を煽った。
物好き。
このアパートに来たことだろうか。別に変わった様子はないが。
まあ、次へ行こう。
一度自分の部屋の前を通る。
右隣のこの部屋。インターフォンを押すべきだろうか。
だが、気持ち悪くてやめたくなる。
「よし・・・。」
意を決して人差し指を突きだした。
鈴のマークに触れる直前だった。
さらに右の部屋が開いた。
そちらに目をやると、神経質そうな中年男性が大荷物を持って出て来た。
「あ、あの!」
中年男性は驚いたように俺を見つめた。
その目は何かに怯えた様子で、焦点も定まっていない。
「君、そこに新しくきた子か?」
「はい。」
「悪いことは言わない。さっさと出た方がいい。何もかもダメになるぞ。」
「え、でも今日来たばっかなんで・・・。」
「すぐにわかる。俺は今から出るんだ。仕事も手に付かない。」
中年男性はさっさと歩いて行ってしまった。
俺の部屋、何かあるのだろうか。
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