捨てられた少女

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靴を上靴から下靴に履き替えて、本校から抜け出す。 雨。 雨が、強く地面に向かって降り注いでいた。 僕は持参していた傘を天に抗うようにして差し、踏み心地の悪い濡れた地面を歩いて、校門を出る。 寄り道をするつもりもないし、やりたいことも行きたいところもない僕は、まっすぐ、いつも通りの帰路を進んだ。 都会の街は、静かだった。 ただ、雨の音だけが、その静寂を突き破る。 たくさんの人で交錯する道を歩き続け、雨がつくった落とし穴に足を踏み込んでは、びしょ濡れになった靴の中の水滴をイライラとしながら振り払った。 靴下にしみ込んだ冷たさが頭にまで伝わってきて、妙に頭を落ち着かせてくる。 そして冷静になった頭を片手で抱え込みながら、一息、「はぁ……」と、溜息をつく。 「生きてるって、何なんだろうな……」 そんな独り言とも戯言とも捉えられるようなことをボソリと呟いては、背中を丸め、傘を持つ反対の手をポケットに入れながら、前かがみに足を進める。 生きる意味。 その話題については、誰もが考えたことがあるものなのだろうが、結局、これといった正しい回答を導き出せたということは、僕の知る限りにおいては、一度も、なかった。 そんなものだろうと思う。 生まれてきたことも、理不尽のひとつ。 望んでこの世に生を受けたわけじゃない。 生まれてきてよかった、と思うこともあるだろうし。 生まれてこなきゃよかった、と思うこともある。 いつ死んでもいいだなんていうのは、さすがに、思ってないけれど……思ったことは、ある。
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