捨てられた少女

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『捨てられていた』、という表現が、いちばん正しいのだろう。 最近では特に見られるようになったのだが、小説や漫画などでもよく描写されていることの多い……段ボールの中に猫や子犬が入れられ、『ひろってください』という文字が記入されている……という構図を、想像してほしい。 まさしくその通りだ。 少女が、段ボールの中に入れられ、その段ボールの側面には丁寧に『ひろってください』とまでマジックで記入されている。 もうその文字が消えかかっているとことから考えると、捨てられたのは昨日今日、というわけでもなさそうだ。 当たり前だが、段ボールのなかにすっぽりと、その少女が収められているわけではない。 その段ボールは思ったよりも小さく、その少女の体の三割くらいがようやく入る程度で、その少女はお尻から体を段ボールに入れるようにして入っていた。 ……驚かされたのは、それだけではない。 その少女の、容姿だ。 小さな体躯に、まるで雪の中でも歩いてきたような白髪。 それも、まったく手入れがなされていないのか、かなり長くて、乱れていた。 見た目は9歳くらいの年齢の、まだまだ幼い子供。 少女と呼ぶよりは、幼女と言ってしまっても間違いにはならないような身体。 そして……。 こんな寒い雨の日だというのにも関わらず、その少女は、裸だった。 靴すらも靴下すらも履いていない。 薄く白い布が、彼女の体を覆っているだけ。 そんな姿では、風邪をひいてしまっ「へくちっ!」……いや、ひいているんだったっけか。 あんな格好をされてしまっていては、見ているこっちまで寒くなってしまいそうだ。 体だけではない。 心も、寒くなってきた。 冷たいのは、雨だけじゃない。 こんなまだ幼い少女を、平気で捨てられるような親の冷たさが、伝わってきた。 もしかしたら、何か深い事情があって彼女を捨てたのかもしれないが、それにしても、娘を捨てなければならない理由など、僕の頭の悪い脳からは、何一つ例が思いつかない。
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