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「驚いた。貴女、同級生だったのね。私は茜香子よ。貴女の名前を聞いてもいい?」
「……ワタシは……、ワタシはナホ。ナホって呼んで」
彼女の逡巡が少し気になった。私の喋り方が急に変わったことに驚いたわけでなく、自身の名前を忘れたかのような反応だった。
ナホと名乗った女子は廊下、つまり学校の中を指差した。
「そろそろ教室に行った方がいい」
ナホは私に行けと言っているのだ。そして、それはここで別れるということ。
確かに、玄関にいた以上、彼女にも何かしらの用事があったのだろう。
けれど私としては、彼女に興味が湧いてきたばかりでもっと話をしたかった。
残念という気持ちが顔に表れてしまったのか、彼女は私を安心させるように微笑む。
「大丈夫。また会える」
なんの裏づけもない言葉。
しかし、何か確信めいた雰囲気があり、私はすんなりと受け入れることが出来た。
「そっか。同じ学校だから、きっと会えるわね」
夏休みが終わり、再会した時にいろいろと話せば良い。
じゃあまたね、と再会を期待しながらナホの横を通り抜ける。
廊下へと進んだところで私は足を止めた。
ふと、彼女の表情を見たくなり後ろを振り返る。
しかし、誰の姿もなかった。数瞬前までは確かにいたナホがもういない。
嫌な汗が背中を伝った。
スグニアエルヨ
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