第二章:不通の節理

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またもや、私は疑問を覚えていた。 自分の教室に着き、用を済ましたので帰るところなのだが…… やはり、人と会わないし、気配もない。 いくら夏休みとはいえ、誰にも会わないということがあるのだろうか。 猜疑心はますます膨れていき、玄関で話したナホの存在する疑わしくなっていく。唐突に姿が消えたこともあるし…… そんな私の思案は、誰かの足音により掻き乱された。 コツ……コツ、コツと音だけで不安定な足取りだと分かる。 角から出てきたのは、辞書ほどの重そうな本を顔が隠れるほどたくさん抱える女子だった。 女子だと分かったのは、夏休みにも関わらず制服を着ていたから。 そして、抱える本は女子が持てる量ではない。私は彼女の動向を心配して見ていた。 果たして、私の嫌な予感が的中して、女子は大量の本を廊下にぶちまけてしまった。 本が落ちる鈍く重たい音と重なって、女子の呻き声が聞えてくる。 「うー、やっちゃったぁ……」 荷物で隠れていた顔が露わになり、ようやく気付く。女子はなんと笹鳴さんだった。 そうと分かった瞬間、私の反応は早かった。すかさず笹鳴さんに近寄り、本を拾い集める。 「笹鳴さん、大丈夫? 怪我してない?」 「え? あっ!! 茜さん、どうしてここに!?」 「忘れ物を取りに来たのよ。笹鳴さんは生徒会の仕事?」 そうです、と答えて彼女も慌てて本を拾いを始める。何故か顔を赤らめながら。 何はともあれ、惨事になるまで私が傍観していたことには気付いていないようで安心した。 本、というより大量の資料(おそらく生徒会関係の資料)を全て拾い、その半分を笹鳴さんに渡す。 「え? あの、茜さん?」 当然のようにもう半分を持つ私に対して、彼女は不思議そうに首を傾げた。 「運ぶのを手伝うわ。行き先は生徒会室かしら」 恐縮しきって困り顔の笹鳴さんの返答を待たず、生徒会室への道を進む私。 そうしないと、彼女は遠慮し続けるだろう。彼女を一人で行かせるなんて以ての外。 危なっかしい彼女を見過ごせるような、図太い神経を私は持ち合わせていないのよ。 ………… トッテモシンセツネ
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