第二章:不通の節理

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コツコツ、コツコツ。 廊下に響く足音は二人分。私と笹鳴さんのものだ。 人気がないのは相変わらずだが、心なしか笹鳴さんの足音が弾んでいるように聞こえる。 目的地の道すがら、彼女の横顔を盗み見ると、何とまあ嬉しそうなこと。 「それにしても生徒会って結構酷い所ね。女の子一人にこんな重い荷物を運ばせるなんて」 「いえ、そんなことは。記録整理も書記の仕事ですから」 笹鳴さんのくすぐったそうに微笑む顔は、ゴロゴロと喉を鳴らす猫のようでもあった。 それにしても、と私は思考を切り替え、日常の色を失っている廊下を見やる。 普段、生徒や教師で溢れ返っている時に感じる、暖かくて柔らかな雰囲気は微塵もない。 今や、コンクリートに囲われただけの冷たい檻と化している。 夏は暑いという自然の摂理に反して、校舎内はどこか薄ら寒かった。 それとなく笹鳴さんに聞いてみたが、やはり人を殆ど見ていないそうだ。 彼女が唯一見たのは、そう、生徒会の人間達。私達の現在の行き先である生徒会室にいるはずの人達のみ。 「あの、茜さん」 笹鳴さんの呼ぶ声に、私は彼女へと意識を向け直した。 会話が途切れたことを不審がられたかと思ったが、そうではなく、私達は既に目的地に辿り着いていたらしい。 そして、笹鳴さんは先程までとは打って変わって意気消沈していた。 彼女が申し訳なさそうに悄気るのは時おりあることだし、その理由も推し量れるというもの。 ずばり、 と、私が考えを巡らそうとするのと同時に、目の前の扉が開かれた。 開け放たれた空間にいたのは、派手な顔立ちをした上級生の女子。 元々整っているだろう容姿はお化粧で更に飾られている。極めつけは豪奢な縦ロールの茶髪だ。 ここまで華美な見た目をしている人は虎青高校に一人しかいない。 舘峨家 聖奈(たちがや せいな)。学年は二年、そして現生徒会長だ。
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