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「あらあらぁー、笹鳴さん。貴女の帰りがあんまりにも遅いものだから、探しに行こうと思っていたところだったのよ」
「す、すいません……!!」
「いいわよ、そんなに謝らなくても」
わざとらしいお嬢様口調で窘めているのだか慰めているのだかよく分からない舘峨家先輩に対し、笹鳴さんは俯き恐縮し続けている。
上司と部下の断崖絶壁のような上下関係をまざまざと見せ付けられる。けれど気になるのは、二人でやり取りをしている間、舘峨家先輩の視線がずっと私に向いていることだった。
そんな私の疑問を感じ取ったのか、彼女は体ごとこちらに向き直る。
「それで? 貴女は一体どなたかしら?」
まるでスープに落ちた異物を見るような目。
警戒しているのでも、侮蔑しているのでも、まして感興しているのでもない。
生徒会役員でもない私が笹鳴さんの手伝いをしていることに対して、ただ不思議に感じているだけなのだろう。
しかし、それでも彼女の威圧感は鋭く、空気が震えている錯覚を抱く。
臆することはない。そう、自分に言い聞かせて笑顔を保った。
「一年の、茜香子と言います。笹鳴さんとは同じクラスで、先程たまたま出会って」
「助けを請われた、ということかしら?」
「……いえ。私の御節介で手伝わせてもらいました」
舘峨家先輩は御自慢の縦ロールを指で弄っている。
何? この私が悪いみたいな雰囲気は。
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