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その動作は危うげで、美奈穂に支えられながらようやくといった感じ。
「危ないわよ、笹鳴さん。落ちたらどう――」
私は息を呑む。
あまり想像したくない未来。こういう時の勘って、結構当たるから嫌だ。
「ここは、一年前にワタシが落ちてしまった場所」
「そして、私も今から美奈お姉ちゃんと同じ運命を辿ります」
頭上から振る笹鳴さんの声には何の迷いもなかった。
きっと、彼女はこうすることを望んでいたのだろう。
美奈穂が死んだのと同じ場所で、同じ様に飛び降りて、と。
それに彼女は既に死人で、飛び降りることに躊躇なんていらない。
だから、私は笹鳴さんを止める言葉を一言も発することが出来なかった。
……というより、この状況すら私が無意識に望んだことなのだろう。
それで笹鳴さんが幸せになるなら、と。
別れの言葉はなかった。
笹鳴さんの体が後ろに傾く。
彼女が空へと飲み込まれる場面がスローモーションのようにゆっくりと流れた。
ほんの一瞬、目が合った時、彼女が始終笑みを浮かべていた口元が動く。
『い・ま・い・お・い』
そして、笹鳴さんの体は奈落へと落下して、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
……口の動きだけだと、言いたいことが分からないわよ、笹鳴さん……
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