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私は歯を食いしばり、ぐっと堪えた。
私に、彼女の死を悼む権利などありはしないから。
残された美奈穂とのお別れも、もうすぐのようだ。
彼女は私の目の前まで歩み寄り、そして頭を下げてくる。
「アナタには感謝している」
「やめてよ。私が起こしたのはただの悲劇よ。貴女が大切に思っていた笹鳴さんまで死なせてしまって……」
「それについては、もう、終わったことよ……」
……そうね。これ以上、意味もなく美奈穂に悲しい声を出させたくはない。
「けれど、感謝というのは本当よ。
ワタシの心残りだった『これ』を、取り戻すことが出来たのだから」
そう言って、彼女は差し出した手を広げた。
手の平の上には、かつて真那智先輩の首に掛かっていた紫の花をモチーフにしたペンダントがあった。いや、鎖は取り外され、今はブローチというべきか。
そうか。真那智先輩から奪われていたと思ったけれど、本来の持ち主の元に還ったのか。
「これで、やっとワタシは逝ける」
「そう……、これで本当にお別れなのね」
もう、彼女の『また会える』という言葉は聞けない。
その代わりに、美奈穂は柔らかい抱擁で私を包み込んだ。
やっぱり……温かいわね。
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