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今更ながら、生徒会室前で笹鳴さんがぐずった理由に思い当たる。
この生徒会長に私を会わせたくなかったのだ。
彼女が早く行動していれば今の状況にはなっていなかった、などと文句を言う気はないけれど、さて、どうすべきかな。
舘峨家先輩のことは全校集会での演説や噂で聞いた程度のことしか知らない。なので、何を考えているのか読めない。
あまり下手な発言をして反感を買いたくない。それに、実のところ私は既に失態を犯している。
私は元々、学校には忘れ物を取りに来ただけで長居をするつもりはなかった。だから、制服ではなく私服で来ていた。
対して、笹鳴さんや舘峨家先輩は公務で来ているためか、制服姿だった。
私服で校内に入ってはいけない、ということはないけれど、自分だけ浮いている感は否めない。
そんな些細なことでも、相手を刺激するのには充分だ。
私の背中は、夏の暑さとは関係なく、じわじわと染みを作り出していく。
しかし、ここで意外な人物から助け船を出された。
「あれ、茜さんじゃない。また会えるなんて、奇遇ね」
舘峨家先輩の肩越しに立っていたのは、昨日出会ったばかりの真那智蓮先輩だった。
彼女の優しげに微笑んだ顔を見ると、途端に安心感を得る。後光が差しているようにすら見えた。
すかさず私は挨拶をして、舘峨家先輩の気を逸らした。
「あらあら、貴女、真那智さんとも知り合いだったの?」
「そうなんです。茜さんとは懇意にさせてもらっています」
真那智先輩のフォローのおかげで、舘峨家先輩の私に向ける威圧感が段々と薄らいでいく。
私は心の中で何度もお礼を言った。
「そう。それでは、お手伝いをして頂いた御礼に御持て成しをしなければいけませんわね」
え?
思いがけぬ提案に私も真那智先輩も面食らう。先輩の目が点になっているが、私もきっと同じ表情をしているのだろう。
「さあさあ、お入りになって。いつまでもそんな重い物を持っていては疲れるでしょう?」
いえ、足止めをしたのは貴女です。それと、相手の反応を窺わず勝手に部屋に入っていくのはどうかと思います。
「茜さん、ごめんね。ちょっとだけ付き合えばいいと思うから」
手を合わせ、小声で謝ってくる真那智先輩に対して、私は苦笑を浮かべた。
「いえ、助かりました。ありがとうございます、真那智先輩」
「ううん、昨日助けてもらったからね」
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