第二章:不通の節理

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先輩は人差し指を立ててウインクをした後、部屋へ入っていった。年下の私が言うのも変だけれど、何とも愛らしい人だ。 昨日は後頭部で一括りにしていた髪を、今日は下ろしている。ナチュラルな彼女もまた、惚れ惚れするくらいに可愛い。 「あの……茜さん」 「ぅえっ!?」 突然声を掛けられハッとなった。 今の今まで黙りこくっていた笹鳴さんが急に喋ったのだ。ずっと以前に冷蔵庫で冷やしていた目薬を発見した時のよう。 まあ、舘峨家先輩みたいにキムチレベルで自己主張の激しいのも困り者だけれど。 「その、本当に……ごめんなさい」 消え入りそうな声でそんなことを言ってくる。舘峨家先輩に対して何も言えなかったことに申し訳なく思っているのか、顔をこちらに向けようとしない。 私は肩を落とし短く溜息をついた。 「気にしなくてもいいのよ。上級生、それも同じ生徒会の先輩なら言いにくいことだってあるわ」 実際、私は彼女に対して怒っていないし、この状況だって悪く思っていない。 だから、笹鳴さんの不安を取り除くつもりでやんわりと言ったのだけど、どうも様子が冴えない。 「いえ、そうではないんです。けど、はい、その、ごめんなさい」 結局、最後まで歯切れが悪く、はっきりとしないまま彼女は生徒会室へと入っていった。 けれど、それは普段の彼女の態度に大差のないもので、あまり気に留めることはなかった。 そして、迷うことなく私も生徒会室へと入室した。遅疑逡巡はしない。それが、笹鳴さんから学んだことだ。 オチャカイノハジマリハジマリ
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