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それにしてもこの男、嫌に馴れ馴れしくて顔が近い。ズイズイと迫ってくる彼に対し、座っている私は上体を反らして遠ざかる。
「ふーん……、茜さん、随分と楽しそうだこと」
……この生徒会長、人の顔色を窺ったことはあるのだろうか。きつい香水の匂いで鼻がひん曲がりそうなのに、それを無理に我慢したせいで引き攣っているであろう私の顔を見たら、楽しそうなどと言えるはずがない。
そして、この状況は最悪に近い。
何をしにきたのかは知らないが、柳瀬先輩の闖入により再び舘峨家先輩が険のある雰囲気を醸し出す。先程よりも明確に、そして鋭さを増して。
さすがの真那智先輩も助け船を出せないのか苦い顔をしている。
(これ以上ここに居ても状況を悪化させるだけ。それなら、後々のことはともかく退散した方がいい。三十六計逃げるに如かず、よ)
決断してからの私の行動は早い。
距離を詰める柳瀬先輩からフワリと抜け出すように立ち上がった私は、舘峨家先輩に向けて深々と腰を折った。
「今日は素敵なお茶会にお招きしていただき、本当にありがとうございました。舘峨家先輩から紅茶を御馳走してもらったなんて、クラスの人に自慢できそうです。
本当はもっと舘峨家先輩とお話したかったのですが、お仕事の邪魔になっては申し訳ないのでこの辺で帰ります」
最後まで澱みなく一本調子で謝辞を述べる。顔を上げれば、自然と舘峨家先輩と目が合う。
作り物めいた長い睫毛の瞳が少しだけ見開いている。
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