第二章:不通の節理

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私は賭けた。この人が救いようのないくらい莫迦でないことを。 私の言葉に含まれた、柳瀬先輩の言の否定と、舘峨家先輩への賞賛と、それから私が身を弁えているという意思表示を読み取ってくれることに期待した。 そんな先輩の反応は、不敵な笑み。対して、私は遠慮がちな微笑みを。 それは、賭けに勝ったことを意味する。ただし、負債は残ったけれど。 「いいわ、茜さん。貴女とはまた今度、ゆっくりお話しましょう」 「はい。大変光栄です」 それっきり、彼女の意識は私から柳瀬先輩にシフトする。当の男はまだ未練があるようだが。 「えー、もう帰っちゃうの? まだ居ればいいじゃん」 「一晃さんったら、いけませんよ。茜さんの都合も考えなくては」 生徒会長の白々しい援護を受けて、私は彼に別れの一礼しておく。 次いで、真那智先輩にアイコンタクトを送る。 (真那智先輩、そういうことですので、もう帰りますね) (ごめんなさい、茜さん。面倒なことになっちゃって) (気にしないでください。夏休みの宿題が増えただけですから) と、たぶんそんなやり取り。
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