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「いつかまた、会えるよね? 僕の所に来てくれるんだよね?」
少年は目の前の青年の服を掴み、泣きながら懇願した。一緒にいた時間は短かったが、少年は青年へと信頼を置いていた。青年の語る話は誰もが夢見るファンタジックな世界で、それに実際に触れてきた様に話していた。青年は苦笑し少年を抱き抱えると、そのままベッドへと寝かせた。
「さあどうだろ。少なくとも僕からは、二度と君には会わないつもりだよ」
青年がそう言うと、少年は顔を歪めて泣き出した。その少年の頭を青年は右手で撫でた。
「だから今度は、君が僕に会いに来なよ」
「でも僕、お兄、さんが、どこにいるか、知ら、ないよ」
「大丈夫、会いに来れるようになれば、僕の居場所がわかるからさ」
嗚咽を漏らす少年に、優しく語りかける青年。彼は未来を見通しているかのように、自信を持って言った。青年は少年を撫でていた手を離すと、そのまま何も無い空間で縦に一閃。すると空間が裂けて、そこから色々な色が溢れ出した。その光景に目を捕われている少年。青年はそこに半身を突っ込むと、もう一度少年に対して話しかけた。
「さあ、君から会いに来てくれると約束してくれるかな?」
「……うん! 絶対に、会いに行ってやる!」
少年は力強く青年に向けて親指を立てた。青年もそれを見て、親指を立てた。そして青年は、裂け目へと全身を入れた。すると裂け目は閉じて、そこには元の通りの何も無い空間があった。気が抜けたのか、少年は本人も知らない内に、眠りの底へと落ちていった。彼はこの出来事を、夢だったと思うかもしれない。だがこれは現実だ。彼の手の中には、青年の指輪が握られていたのだから。
「……それじゃあ楽しみにしてるよ、昔の僕」
青年はそう呟いて、色の溢れる空間の中を歩き始めた。どこに向かっている訳ではない。このまま歩いても、どこにたどり着くかわかっていない。だが青年は迷わずに足を進める。自分のまだ知らない、新しい世界に向かって。
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