光ある限り

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 長い間運命に逆らい続けた体が崩れていく。床にくずおれる魔王は、足から空気に溶けていく自分の体と、終焉をもたらした男を見ていた。その顔に力は既に無い。勇者と呼ばれる男に、魔王は語る。 「我が消えても、同種の輩が絶える事はない。貴様のした事は意味が無いのだ」  自嘲した様な笑みを浮かべた。諦念の情を瞳が孕んでいた。その様子に気づいてか気づかずか、勇者も言葉を返す。その顔にも戦いの疲れが見える。 「確かにお前等みたいな連中はいなくなる事は無いと思う。でも俺みたいなのも、絶対にいなくならない」  疲れを吹き飛ばすかの様に、語気はだんだんと強くなる。そして勇者は魔王を見据えて言い放つ。 「俺達は絶対に負けやしない!」  真っすぐに魔王を見据える勇者。自信ではなく確信。その心の強さこそが、勇者たる所以なのだろうか。魔王はそんな勇者を見て、初めて敵わないと思った。       ・・ 「そうか……私もお前の様に強くあればな……」  魔王は……いや、元勇者は小さくそう呟いた。彼は自身に、確固たる勇気が足りなかったと気づいた。気づいた所で今更出来る事は無い。だが彼は最期に、自分が出来ることを探した。 「これは私の独り言だ……勇者、お前のその強い信念、後世に伝えて行ってほしいものだ」  勇者は驚いた。まさか敵の総大将に、忠告されるとは思わなかったからだ。彼の体はほぼ上半身しか残っていない。それを気にする素振りを見せずに、続けて言葉を紡ぐ。 「いつかまた私と同じ種類のものが現れる。その時にお前の様な人間がいるとは限らない! お前が残すのだ! その時に備えて、伝えつづけ――」  無理をしたのだろうか。崩壊する速度が上がり、途中で口が消えた。全てを伝える事が出来ずに、元勇者は無念な気持ちであった。もう音すらも聞こえない。最期に彼は目を開けた。そこには握りこぶしを前に、勇者が立っていた。俺に任せろと、言うが如くに。  魔王の体は消え去った。それを見届けた勇者は、門へと向かう。最後に見た彼は、笑って見えた。だから帰ったら伝えるのだ。残すのだ。自分の信念を。そして最期に見せた、もう一人の勇者の信念を。
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