君もなるのか

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 俺が見る限り、奴はまだ本気じゃなかった。パフォーマンスさ。構って欲しいのが見え見えだった。そんなんだから、俺は気安く声をかけた。 「飛び下りるのか?」 「な、なんなんだあんたら! こっち来るな!」 「別に止めやしねえよ。勝手にすればいいさ」  俺は連れの男と共に、奴から少し離れた場所でフェンスを登った。奴は俺達の一挙一動にびくびくしていた。俺は確信したね、こいつを救えると。 「君まだ踏ん切りつかないんだろ? だったら先にこいつ飛ばせてくんない?」 「……はぁ!? あんたら一体何を言ってるんだよ!?」  案の定奴は、俺達のぶっ飛んだ行動に困惑している。そりゃそうだ、俺達だってぶっ飛んでるという自覚あるしな。理解出来るはずがねえよ。 「じゃ、お先に失礼します」  連れが段差でも飛び越える様な感じで、ビルから飛び下りた。少しして、ドスンという重たい音と、グチャッという潰れた音が混じって聞こえた。頭はまるで潰れたトマトみたいになっている。血の海に脱力して横たわるそれは、何故かとても小さく見えた。唖然としながら見ていた奴は、弾けたように後退り、フェンスにしがみついた。困惑の顔は恐怖に塗り潰された。恐怖のあまり、声も出ない様だった。俺は感情を出さないように、奴に話し掛ける。 「君もなるのか?」 「……ひぃぅっ! はぁっ! うぁっ!」  もう一押しだと思った俺は、下を指差してもう一度言った。 「ああなりたいのか?」 「はぁぅっ! ひっ! あぁあああああああ!!」  奴はがむしゃらにフェンスを登り、足をもつれさせながらも、階段に走って消えて行った。走り去る奴を見届けた俺は、後始末の為に下へ向かう。血の海を掃除するために、俺は退けてもらう事にした。 「終わったぞ、早く起きろ」 「お、終わった?」  血の海から起き上がったそれは、いつもの飄々とした顔を浮かべていた。頭はまだトマトだが、ジュクジュクと再生し始めている。 「今回も効果覿面だったよ」 「そりゃこれ見せたらね」 「やめろ馬鹿野郎」  掃除を続ける俺に、こいつは頭を指差して笑う。やめろ血まみれの脳みそを見せるな気持ち悪い。不死身な奴は精神面も打たれ強いとか、勘弁して欲しいぜ。  掃除を終えた俺達は次の奴を探す。自殺が取り柄な奴はこいつだけで十分だ。
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