その目に光を

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 少女は前髪を下ろし、目を伏せている。彼女は目を見られる事を極端に嫌っている。彼女の瞳を見た者は、例外なく不幸になる。故に彼女は目を、自分自身を嫌っていた。 「……もう貴方を巻き込みたくない。だから私の事はほっといて」  少女に向かい合う少年は、それに対し首を振る。彼は少女にとって唯一の話し相手だった。とは言っても、大抵は彼が少女に一方的に話すだけである。一目惚れだった。人里離れた洞窟の岩に腰掛けていたのを、彼は見つけてしまった。  村の伝承では人里離れた洞窟に、魔女が住んでいると伝わっている。魔女に見つかると、たとえ地の果てまでも追い掛けられ、生き血を吸われて死ぬと。少年は無謀な冒険心で、伝承の洞窟へと足を踏み入れた。そこにいたのは魔女ではなく、少女だった。  彼は冒険の結果を人には言わなかった。そのかわり、次の日から洞窟へ通い詰めた。彼は死んでいるかの様に黙り込む彼女に、話しかけ続けた。十日程彼が話しかけ続けると、初めて少女は口を開いた。 「帰れ。お前が来るような場所じゃない」  澄んでいる声は少女そのものであるが、威厳のある様は魔女を思わせた。だが少年は恐怖を感じることなく、聞き返した。 「なぜ?」 「なぜって……私が怖くないのか?」 「うん。かわいい」  少女は、そのような言葉をかけられる事に慣れてないせいか、動揺した様子だった。少年は今までと変わらず、彼女に話しかけ続けた。  彼等が出会ってから、一年経った。少女は徐々に少年に心を開き、自分の事を話した。魔女に呪いをかけられた事、何百年とこの姿のままここにいる事、いつも同じ悪夢を見る事、そしてつい口走ってしまった、呪いを解く方法。もう二度と頼らないと決めていたのに。自分の為に危険を冒してほしくはないのに。少年も今までと同じ様に、戻って来なくなるから。  力強く首を振った少年は、自信に満ちた声で少女に言う。 「絶対に呪いを解いて戻って来る!」 「今まで誰も解けなかったの。だから諦め――」 「絶対に戻って来る! 約束する!」 「…………お願いだから……絶対に戻って来てね」  少年の決心は固かった。嗚咽を漏らす彼女の声を聞いて、力強く頷いた。  少女が顔を上げて、少年を見据える。この時少年は、彼女の目を初めて見た。漆黒の闇に染まる彼女の両眸。それに光を点すと、少年は誓った。少年は彼女の瞳に、吸い込まれて消えていった。
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