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「無茶するな! 初音、いいかい? 初音にとってはここは別世界なんだ。あちらの世界のような真似はしちゃいけない。何があるか分からないんだ。まして世界を覗くなんてどうなるか……」
「オォ――――――」
「っ、何だ。今のは」
真白が初音を叱っていると、突如として凄まじい音が響いてきた。
すぐさま真白は初音を抱き上げ立ち上がると、辺りを見据え気配を探る。
が、その動作をした瞬間眩暈を起こしたのか、真白はふらついてしまう。
「真白!?」
「大丈夫、立ち眩みだよ。心配いらない」
それに初音が驚き心配した声を上げるが、真白は青褪めた表情を見せないように初音の顔を胸板に押し付けた。
これに、初音は真白の意図を察して口を噤む。
しかし、これだけは伝えなければならない、と初音は再び口を開いた。
「っ、……真白聞いて。この世界は、滅びに向かってる。何かが侵蝕してるの」
それは真白を心配する言葉ではなく、初音自身が見た世界(げんじつ)だった。
きっと真白は心配しても否定する、そう思った初音がそれならと選択したものだった。
「どういうことなんだ、初音。滅びって、原因は? 何かって何なんだ!?」
初音のその言葉に、流石に真白も動揺を隠せず、問い詰めるかのように矢継ぎ早に聞き返してしまう。
精神的にも、そして肉体的にも限界の近かった真白には、初音の言葉が信じられなかったようだ。
だが、初音の力が確かなものだとも知っている真白だ。
初音がそう言うのなら、真実なのだと理解させられてしまう。
受け入れられるかどうかは別として。
「ごめんなさい、真白。私にもよく分からないの。覗いていたらいきなり世界から弾かれて。ただ、何かがこの世界を侵蝕しているとしか」
「……そっか、俺の方こそごめん。初音に当たっちゃったね」
すでに肉体も精神も消耗し切っている真白は、己の言動にすら注意を払えなくなってきているように見える。
更に、そんな真白に追い討ちを掛けるように、また先程の雄叫びのような音が響いてきた。
今度は先程よりも近い距離だ。
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