一話 帰ってきた世界

4/5
前へ
/281ページ
次へ
「ましろ、ありがとう。でも、それは出来ないと思う。わたしは、ましろとは違う」 「……そっか。でもさ、君と俺、どこが違うのかな。どこも違いなんてないと思うよ?」  真白は子供のその言葉を予期していた。  子供のこれまでを考えれば、素直に頷くとは思っていなかったのだ。 「違うよ、わたしは神様って存在。ましろは、人間って存在。相容れない存在なんだよ」  子供はその幼さに似合わない言葉遣いをするが、同時に真白に助けを求めているようにも窺えた。 「なるほどね。でも、それこそ間違ってるなぁ。君はもう、神様じゃないんだから。神域も離れられたろう?」 「うん、あそこからは出られたよ。でも、出られたからって神様の存在じゃなくなるわけじゃない。その存在は生きている限り、永久に変わらないの」  子供は真白の問い掛けに頷きはするものの、自身の存在についての主張を曲げることはなかった。 「縛られる事はない。って言ってもまだ出たばかりで難しいか。ならさ、新しく生きてみようよ」  子供の言葉に、真白は少し違う方向から諭すことにした。 「新しく?」 「そう、新しく。新しい名前で、新しい生活して、新しい人生を歩もう? そもそもさ、生きるって言うのは毎日が新しい事なんだ。過去に縛られていても、そんなことは関係ない。君は君なんだから」  子供が何度目かになる首を傾げる仕草に、真白は頷き話していく。  内容など無茶苦茶だ。  だが、真白はそれで構わなかった。  今必要なのは、子供が自身の存在について苦悩をしない、それだけなのだから。 「ましろ……、ありがとう」  子供にも真白の意図が分かったようだった。  理解したのだ、その幼い身で。  子供はお礼の一言の後、可笑しそうにクスクスと無邪気に笑っていた。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

832人が本棚に入れています
本棚に追加