一話 帰ってきた世界

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「まぁ、家族云々の話はそのうち君が踏ん切りがついたらもう一度しよう。今は、君の名前だね」  真白は安堵の溜め息とともに子供に笑いかけた。 「うん。でも、さっきも言ったけどわたしは名前がないの」  子供も笑いはするが、やはりこの話に戻ると表情が沈みがちになる。 「それなんだけど、良ければ俺が君の名付け親になる許可を貰えないかな? 君に名前を贈りたいんだ。どうかな?」  しかし、真白は更に一歩子供の心に歩み寄るように一つの提案をした。 「ましろが? ……うん! ましろ、わたしの名前考えて!」 「ありがとう、実はもう考えてあるんだ」  子供が驚きはしゃぐ姿に、真白は悪戯が成功した子供のような表情を浮かべた。 「大空(おおぞら) 初音(はつね)。どうかな? 大空は分かると思うけど俺の苗字。やっぱり、苗字無いと色々大変だからさ。初音は、漢字が分からないかもしれないけど、初めの音って書くんだ。それと、新しいとか始まりって意味も込めてる」  子供もそうだが、真白も多少なりとも緊張しているらしく、言葉をつらつらと止めることもなく最後まで話しきった。  少し身振り手振りも混じっていたのを見ると、真白の緊張度合いが窺える。  その話が終わり、どうだろうかと子供を見つめる真白。  子供の答えとは。 「ましろ、ありがとう。はつね、わたし、はつねって名前だよ」  子供――初音は涙と笑顔で顔をぐしゃぐしゃにして、真白に抱き付く。  暫し、初音が泣き止むまで真白は無言のまま初音を撫で続けた。  それは晴れ渡った空の下での出来事だった。
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