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「まぁ、家族云々の話はそのうち君が踏ん切りがついたらもう一度しよう。今は、君の名前だね」
真白は安堵の溜め息とともに子供に笑いかけた。
「うん。でも、さっきも言ったけどわたしは名前がないの」
子供も笑いはするが、やはりこの話に戻ると表情が沈みがちになる。
「それなんだけど、良ければ俺が君の名付け親になる許可を貰えないかな? 君に名前を贈りたいんだ。どうかな?」
しかし、真白は更に一歩子供の心に歩み寄るように一つの提案をした。
「ましろが? ……うん! ましろ、わたしの名前考えて!」
「ありがとう、実はもう考えてあるんだ」
子供が驚きはしゃぐ姿に、真白は悪戯が成功した子供のような表情を浮かべた。
「大空(おおぞら) 初音(はつね)。どうかな? 大空は分かると思うけど俺の苗字。やっぱり、苗字無いと色々大変だからさ。初音は、漢字が分からないかもしれないけど、初めの音って書くんだ。それと、新しいとか始まりって意味も込めてる」
子供もそうだが、真白も多少なりとも緊張しているらしく、言葉をつらつらと止めることもなく最後まで話しきった。
少し身振り手振りも混じっていたのを見ると、真白の緊張度合いが窺える。
その話が終わり、どうだろうかと子供を見つめる真白。
子供の答えとは。
「ましろ、ありがとう。はつね、わたし、はつねって名前だよ」
子供――初音は涙と笑顔で顔をぐしゃぐしゃにして、真白に抱き付く。
暫し、初音が泣き止むまで真白は無言のまま初音を撫で続けた。
それは晴れ渡った空の下での出来事だった。
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