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辺りには逸脱した存在、姿は犬か狼を歪に模倣したような形、それに加え背から触手のようなものまで蠢かせている。
そして何より、大きかった。
大型の犬や狼より、なお大きい。
二倍、いや、三倍はあるだろうか。
それが数匹、今にも襲わんと涎を垂らし唸り声を上げ真白達を取り囲んでいた。
真白達は何故、このような状況に追い込まれてしまったのか。
それは遡ること数十分前のことだ。
真白が初音に漢字を教え終わった頃だった。
「真白、真白。これからどうするの?」
初音が真白に現実的な問題を思い出させる。
「ん? そうだね、どうしよう。先ずは、上からこの辺りを見渡してみようかな。それから人が居そうな場所か、人が居た痕跡でも探してみるつもりだよ」
初音の言葉に真白は気楽に答えていた。
真白は初音とのやり取りで気持ちを落ち着かせることが出来た為、現状を若干楽観的に考えられるようになったようだ。
「でも、こんな所に人なんか居るの?」
「まぁ、そうだね。でも、この場所がこんな状態になったからと言って、全ての人が存在しないとは限らないよ。何処かに逞しく生きてるかもしれないし、此処だけがこんな状態になったのかもしれないからね」
更に続く初音の問い掛けに、真白はまだ希望は捨てていないと語る。
初音を迎え入れようとした世界が、既に終わってしまっているなど考えたくなかったとも言えた。
「うーん、そっか。あ、なら、わたしが世界を覗いてあげる! ちょっと待っててね」
そこに初音が名案を思い付いたとばかりに手を叩き、何もない空間に手を翳す。
次いで、すぐにトランス状態のようなものになり、虚空を虚ろなその瞳で見据える。
「え、初音。それは……」
あまりの早さに真白は止める暇もなく、ただただ見ていることしか出来なかった。
「――――。――――……、真白、この世界、痛いっ」
初音が意識を取り戻し、真白に声を掛けたその瞬間、初音は頭に真白の拳骨を頂いた。
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