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拓海は、レジの置かれるカウンターの中から再び時計に、目をやった。時計の針は、丁度19時を指そうとしていた。彼女が来る時間になると、この頃、拓海は妙にソワソワしてしまうのだ。
すると、コンビニの入り口のドアが、静かに開いて、それと同時に、外の空気と一緒に、ローズ系の香水の匂いがホンノリ拓海の鼻に運ばれてきた。その香りは、彼女の来店を拓海に知らせる合図だった。
拓海が入り口に、目を向けるといつも通り無表情な彼女が、そこにいた。
「今日は珍しいな……」拓海はそう思った。いつもは、ロングのワンピーススタイルかパンツスタイルのコーディネイトで現れる彼女が、短めのバンテージスカートで現れたからだ。
いつもは、隠された美脚を、惜しげもなく露わにしている。
良く手入れされた少し明るめの色の長い髪を両肩から胸へと垂らしているのは、いつも通りだ。
そんな彼女に、少し見とれているとレジに、お客さんが来てしまい、拓海は彼女から目線を外した。
彼女が次に来るのは朝方の3時~5時位である。少しお酒の匂いを漂わせて、この店へと戻ってくる。
このコンビニは、新宿の外れ、都営大江戸線西新宿5丁目駅のすぐそばにある。駅の周りは、ビルが立ち並び、オフィス街となっていて実に都会らしい雰囲気だが、山手通りを挟んだ向こう側は、住宅街になっておりホームタウン的な少し新宿のイメージとは重ならない雰囲気を感じさせる。丁度この辺りは渋谷、新宿、中野などの中間に当たるので、周辺で働く様々な人達が住んでいるようだ。そんな事情もあり、このコンビニには、様々な職業のお客さんがやってくる。長くコンビニで働いていると、雰囲気で大体の職業が解る様になるものだが、特に水商売の女の人や男の人は独特の雰囲気を持っていて、すぐにそれとわかる。
たぶん彼女も水商売を生業にしているのだろう。だが、彼女からは、あのなんともいえない独特の雰囲気を感じることはない。唯一、水商売をやっているのだと感じるのは、この店を出てしばらくすると彼女を迎えに来る送迎車に彼女が、乗り込んでいくのを見るときだけだ。
拓海は、このコンビニに働き始めて、そろそろ1年6ヶ月になるが、慢性的な人手不足により、いつのまにか18時~6時という長時間勤務を余儀なくされていた。
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