桜の季節

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 いつもの夜の公園。 いつも通り、いつものコンビニで買物をする。 いつもと同じ缶コーヒーを買う。 いつも通りの道順で、家へと向かう。 いつもと同じ帰り道。 でも、いつもとは少し違う。 いつも通りに通りがかった公園の桜の木が、満開の花を咲かせている。 ヒラリと舞った桜の花びらが、拓海の頬に当たる。 頬に当たった桜の花びらの感触を感じ、拓海は顔を見上げ満開の桜の木を眺める。 そして季節の移り変わりを知る拓海。 「何をしているんだろう、俺は……」 そんな思いが脳裏をよぎり、つい声に出てしまう。   あの頃は――と、拓海は思い出す。  拓海は長野の片田舎で育った。 小さな村、過疎化の進む小さな村だった。 在校生全員合わせても100人に満たないそんな小学校、その小学校には不釣合いなほどに広い校庭。 その校庭を囲うように桜の木が植えられていた。 その校庭の桜の木達が、4月になると満開に花を咲かせる。 そんな風景、子供の頃は気にも留めなかった風景。 その風景が最近では、やけに懐かしく感じられる。 あの頃はきっと、一日一日が楽しくて、明日が来るのが待ち遠しかった。  いつからだろう――と、拓海は考える。  今では、一日一日がひどく長く感じ、苦しく思うくせに、気がつけば季節が変わり通り過ぎていく。 あんなに待ち遠しかった明日が、来なければいいのにと思う。 毎日、明日に希望を託す。 なのに明日は、絶望と孤独を残して足早に通り過ぎていく。 寂しいと思う。 でも、どうしたら良いか拓海にはわからない。 心が動かない気がする。 何をしていても、どこかにえもいわれぬ違和感を感じてしまう。  気がつけば25歳になり、あと半年もすれば26歳になる。 十代の頃、25歳なんてもっと大人で、もっと立派なものだと思っていた。 でも、なってみれば大してあの頃から成長などしていない。 自分だけがそうなのかも知れないと、焦ったりもする。 それでも前に進む事が出来ない自分が、心底嫌になる。 お前がいれば――と、届きはしない面影に語りかけてしまう。  強い風が吹いて、桜の花びらが舞う。 拓海はふと我に返る。 そして短くため息を吐くと、”いつも”の日常に戻る。 何も無いとは知りつつ、それでもいつかはと期待して。 「なんか飲みたい気分かな」 拓海はふと呟く。
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