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「桜さん!出来ればもう一本お願いしたいんだけど……」
桜は、歌舞伎町の、とある風俗店'スウィートエンジェル'で働く風俗嬢だ。先程、お客さんを送り出して、使ったバスタオル等を事務所の脇にある回収袋に片付けに来ると、店のボーイから気まずそうに声を掛けられた。
桜は、携帯電話を取り出して時刻を確認した。時刻は、午前2時を5分ほど回っていた。
桜は、売れっ子の風俗嬢であり、一日のスケジュールのほとんどが事前の予約で埋まっている。生理予定の5日間を抜かして、ほぼ2ヶ月先まで予約で一杯だ。
たまに、生理が長引いたり、時期がずれたりして、せっかくの予約がパーになってしまう不運なお客さんもいるが、それでも桜に文句を言うようなお客さんは少ない。
「今日は、純さんの店に行く日だから……」
桜は、困った顔でボーイの顔をチラッと見た。
すると、ボーイも困った顔で答えた。
「それがさ……手違いで、この前入ったボーイが予約受けちゃっててさ……どうしても無理だったら、こっちで謝って帰ってもらうけど……」
いつもなら、何も言わず引き受ける桜だったが、今日に限っては3時までにどうしても'純さんの店'に、行かなければならなかった。
とは言うものの、困り果てたボーイの顔を見る限り、相手は大人しく帰ってくれる心の広いお客さんでもなさそだし、このまま断るのも気が引けた。
もっとも、桜ほどの売れっ子になれば、ただでさえ女の子優先の水商売の世界では、社長や店長クラスの発言力がある。ましてスタッフのミスの尻拭いなど「いやだ」と言えばそれまでだ。
「ちょっと待ってて」
桜は、ボーイにそう言うと携帯電話で、どこかに電話を掛けた。そして電話が終わると
「45分コースで良ければ出来るよ?」
そう言ってボーイを無表情に見た。
「マジで!?ありがと~」
桜は、ホッとした様子で、大袈裟に感謝するボーイを見て、目元を少し緩ませて、控えめな笑顔を作った。
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