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「遅くなってすいません!」
優香は、そう言いながら両脇のボックス席の間に作られた通路を歩いた。優香がカウンターまで来ると、奥で洗い物をしていたらしい純が、手を拭きながらカウンターに戻って来た。
「こんな時間まで大変だったわね。なんなら明日でも良かったのよ?」
純は落ち着いた、大人の女を絵に描いた様な口振りで、手を拭きながら、そう言った。
「そうも行かないですよ……」
優香は、純がタオルを置いたのを見てから、手に持っていた分厚い茶封筒を差し出した。
純は、茶封筒を受け取ると
「確認……」そう言った後、そんな自分の言葉を悔いるように笑ってから
「しなくて大丈夫よね」
そういって微笑んだ。
「ええ……銀行で下ろしたのをそのまま封筒に入れたので」
優香が平然と答えたのを見て、純は黙って頷くとカウンターの奥へと茶封筒を持って行った。
暫くして、純がカウンターに戻ってくると、優香は
「遅くなって本当にすいませんでした!じゃあ帰ります!」
そう言って頭を下げた。
純は優香を少し考え込む様に見ると声を掛けた。
「ねぇ……何か良い事あったの?」
優香はそんな純の言葉に戸惑った顔で純の顔を見た。優香には心当たりが無かった。
「なんでですか?」
優香が不思議そうに純に聞き返すと、純はクスッと笑った後で答えた。
「女の勘ってやつかな」
純はそう言ってクスクス笑った後で、考える様に言った。
「何となくね……何となく分かる様になるのよ。この仕事をしているとね……」
そんな純の言葉に、優香は言葉も無く、首を傾げた。
「ねぇ優香ちゃん……今日はこの後、時間ある?」
優香は、純のその言葉に
「少しだったら……」
無表情にそう答えた。本当は、時間ならたっぷり有るのだが、純に「時間ある?」と聞かれた瞬間、何故か今日の出勤前に立ち寄ったコンビニで言われた「いってらっしゃい」という一言が頭によぎって、思わず「少しだったら……」と答えてしまった。
「じゃあ、少しだけ付き合って」
純はそう言って微笑んだ。そんな純に、優香も控えめに微笑んでコクッ頷いた。
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