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優香が黙っていると、純がワインの入ったグラスをスッと静かに、優香に差し出した。
優香がグラスを持つと、純は自分のグラスを少し傾けながら優香のグラスに近づけ、
「優香ちゃん、今月もお疲れ様でした」
そう言って自分のグラスを優香の持つグラスに静かにぶつけた。
カチャンという、繊細なグラスの衝突音が響くと、優香も目元を少し緩めて静かに微笑むと
「ありがとうございます」
そう言った。その後、二人はゆっくりとワインを口に運んだ。
「美味しい……」
優香はワインを飲んだ後、静かな小さな声で呟いた。
「本当に美味しい……」
純もワインを一口飲むとそう言った。その後、ふと思い出したように純は、
「こんなに美味しいのに、なんでこの味が解らないかなぁ~」
そう言って溜息を吐いた。
「どうしたんですか?」
優香が不思議そうに訊くと、純は、また溜息を吐きながら少し顔をしかめて、カウンターの正面にあるキープボトルが並んでいる棚に目をやり、その一番真ん中に目立つ様に置いてある2本の、シングルモルトウィスキー'マッカラン'を指差して言った。
「そこのボトルの主達の事……」
そう言うと純はカウンターを出て優香の隣のイスに座った。
「左のボトルが、ヒロ君ので、右のボトルが、ヒロ君の親友の万年青春純愛男のボトル……」
ヒロ君というのは、純の夫で、某広域暴力団の2次団体の組長をしている。純は、優香以外の人の前では、決してヒロ君などとは呼んだりしないが、優香の前では普段、家にいる時そのままのヒロ君という呼び名を使うのだ。
優香は珍しくクスッと笑うと
「万年青春純愛男ってなんですか?なんか可笑しい」
そう言ってまたクスリと笑った。
純も釣られてクスクスと笑いながら、答えた。
「何ってそのまんま……良い奴なんだけどね……優香ちゃんは見た事無いと思う。最近、滅多に顔出さないから……まぁとにかく、この前2人が来た時も、今日みたいな事が有ってね……ワイン出して上げたのよ。そしたらアイツら何て言ったと思う?」
そう訊かれた優香は、解らないという素振りで首を振った。
「そんな酸っぱい酒飲めるか!だって……まったく……一回、病院で自分達の舌を精密検査した方が良いわよね」
そういうと純はクスクス笑った。
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