桜の季節

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「そういえば優香ちゃんお腹減ってない?」 純は思い立ったように優香にそう聞いた。 「少し……」 優香はちょっと恥ずかしそうに、そう答えた。純はニッコリ微笑むと 「今日、思ったよりお客さん入らなかったから、お通しが余っちゃってさ……食べる?」 そう言って優香を見た。優香がコクンと頷くと、純はまたニッコリ微笑んでからカウンターの奥へと、歩いて行った。 スナック純の名物は、純の作る日替わりのお通しである。毎日、何種類かのお通しを用意して、客の好みに応じて提供している。 純は、カウンターの奥で何かを温めている。 優香がお通しが出来るのを待っていると、奥から純が優香に、思い出した様に話しかけた。 「そういえば、このペースなら今年中には終わりそうじゃない?」 「何のことですか?」 優香が純に訊き返した。 「何ってお金よ!ヒロ君褒めてたよ!優香ちゃんが男だったら俺の若い衆にしたい位だ!って」 純はそう言うとカウンターに少し顔を出して、苦笑いした後、またカウンターの奥へと引っ込んだ。 優香は少し間を置いてから答えた。 「そんな……私、褒められる様な事何も……それに、借りたお金返すのは普通の事ですよ」 優香がそう言うと暫く静かな静寂が、店内に流れた。 静かな店内に、カチャカチャという陶器の擦れる音が響いた後、少しすると純が、煮物らしき物が盛り付けられた小皿と、ほうれん草のおひたしが盛り付けられた小皿を手にカウンターへと出てきた。 「おでん……」 優香は、煮物の盛り付けられたお皿を見ると小さくそう呟いた。 「少し季節外れだけど、作って見たのよ」 純は、そう言って微笑んだ。 純は、二つのお皿を優香の前に並べると、そっとお皿に割り箸を添えた。そして、カウンターを出て優香の隣の椅子に腰を下ろした。 優香はそんな純を横目に、箸を取りおでんへと箸を伸ばした。優香は大根を摘んで口に運ぶと、 「美味しい……」 そう控えめに呟いた。 純はそんな優香を、微笑みながら見た後、ワインを一口飲み込んだ。 そして、一つ溜息を吐いた後言った。 「さっきの話だけど……優香ちゃんは充分立派よ。それに元々は優香ちゃんが借りたお金じゃないんだから……褒められておかしい事じゃ無いんじゃない?」 純のその言葉を聞くと優香は、箸を止め、少し俯いたまま 「純さん……その話は、もう……」 そう言った。
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