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間宮睦月は情報通
放課後の校舎裏に、男子生徒と女子生徒が一人ずつ、面と向かいあっている。
雪が残る三月。未だ冬真っ只中で吐く息は白く、二人とも、コートとマフラー、加えて手袋をつけているのだが……沈黙を保ったまま、その場で立ち尽くしていた。
さぁ言え、言うんだ。
今日のために、昨日何回練習してきたと思っている!
「僕と一緒に、桜祭りに行ってくれないか?」
彼女に、その一言を伝えるだけで良いんだぞ。
やり場がなくなって、手を固く握り締めているのが分かる。心臓だって、今頃バクバクと強く脈打っている事だろう。下手したら、先週終わったばかりの大学入試以上に緊張しているかもしれない。
だが、頼む! 昨日の時間を無駄にしないためにも、口だけでいい、動いてくれ!
「で、話ってなに?」
痺れを切らしたのか、呼び出された彼女の方が先に口を開く。
何で呼ばれたかは恐らく検討はついてるかもしれない。でも、流石に何十分も待ってはくれないだろう。
しかも今の切り出しかたと言い、何とも言いづらくなっちまった。
だが、ここで行かなかったら、もう後が無いぞ! 行くんだ、行くしかないんだ!
その気持ちが口に伝わったのか、パクパクと二三度開きかけて、声を紡いだ。
「い、今まで、ありがとうって、そう言いたくってさ」
って、あろうことか、全く別の言葉が飛び出したぞ畜生!
違うだろ、本当に伝えたい言葉は!
だが、俺のそんな思いは届かなかったのか。あ、そ、と簡単な二音を残して、呼ばれた彼女は去っていく。
寒い、凍える様な声音によって、校舎裏で、一人竦(タタズ)む俺の悪友。
その手は、未練がましく去っていく女子生徒の方へと伸ばされて……途中でだらりと崩れ落ちた。
「やっちまったよ、あのバカ野郎」
男から桜祭に誘ったカップルは、終生上手くいく。
そんな噂に唆(ソソノカ)された男が一人、今目の前で桜のように儚く散った。
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