新天地

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人類の緩やか衰退化が始まったのは、いつからだっただろう、致死率100パーセントの病原菌が世界をゆっくり覆い始めたのはいつからだっただろう? 沢山の人が、どろどろの肉塊になって、そのまま溶けて、骨だけを残し死ぬ、友人も、学校の先生も、親戚のおじさん、おばさんや近所の人達、そして、僕の両親も死んだ、どろどろの肉塊になって、溶けて死んで逝った。 『人類の希望を、託したロケットは、無事、発射された模様です』 ラジオのニュースがそんな事を、告げた、何度目のロケット発射かわからないけれど、人類は、遠い遠い宇宙に新天地を求めたらしい、たった一握りの人間と微かな希望を、背中に背負いこみ、ロケットが発射されるのだ。 「くだらない」 僕は、吐き捨てるようにいって、ラジオのスイッチを切った、生き残ったのが、不幸か、幸福かと問われるなら、不幸だと答えたい、失う悲しみを抱えるくらいなら、さっさと死んでしまいたい。 「どうして? すごいことなんだよ?」 隣に腰掛けて、同じように、ラジオを、聞いていた彼女が言った、その表情は少し悲しそうな、寂しそうな色で彩られていた、淡い青色のような色で、僕は、振り払うように。 「凄くなんかないさ、どうせ、彼らは戻ってこない」 「危ないから?」 「違うね、彼らは逃げ出したのさ、この世界に居る限り、いつか必ず、あの病気に感染して死ぬんだ、なら、宇宙に行く理由なんて、一つしかないだろ、死にたくないから逃げ出してる、子供だって、少し考えればわかる」 こんな、死んだ世界に戻ってくるわけがない。 「ひねくれ者」 「なんとでも言えばいい」 「…………なら、私も死んでも、君は悲しんでくれないんだ、死んだ死んだって笑うんだ」 なんで、そんなことを、言う。 「笑うわけないだろ」 「…………うん」 彼女が嬉しそうに笑い、手を繋いでくる、しっとりとした柔らかい手だった。 その手を、握り返す、僕達はこの死んだ世界で生きていく、遠くの宇宙に飛び立つ、ロケットを眺めながら。
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